K研昼ゼミ論文紹介その1「A simple rule for the evolution of cooperation on graphs and social networks」*2

 協力行動が進化するために必要な条件として、これまで進化生物学では様々な条件を仮定してきた。例えば血縁関係や、直接互恵性、風評(関節互恵性)など。これらはそれぞれに現実の協力行動を説明するためには欠点がある。例えば血縁関係がないのにもかかわらず協力行動を行う生物*1が存在する、など。この論文の著者らは、新しい仮定としてネットワーク構造を考え出した。それは、ある個体が他の特定の個体と一生を通じて相互作用し続けるという仮定である*2


この仮定を満たす系においては、協力によるコストに対する利益の比が、ある個体が繋がる個体の数を上回るとき、協力という戦略が系全体に固定する。*3様々なパラメータを使ったシミュレーションでも同じような結果が得られたらしい。


 多分、この研究の一番の新しさは、「何らかの関係性」という抽象的な概念をネットワーク構造という数学的に解析できる形に起こしたところなのだと思いました。これまで、色々な人々が「何らかの関係性」の「中身」を気にしてきたけれども、その中身はともかく、抽象的なネットワークの枠組みで捉えることで、協力行動の進化の新しい側面を引き出せるということなのだと思います。協力行動が進化するための条件式の関数形は、血縁淘汰と同じになることが、まさにそのことを表しているように思いました。ネットワークが流行っているのもうなずける話です。この論文紹介は新しく入ってきた4年生の方が発表してくれたのですが、つたないながらも非常に分かりやすいクリアな説明で、とても素晴らしかったです。彼の今後の活躍に期待です。

*1:ヒト、チスイコウモリ、一部の鳥類など

*2:その後、動的ネットワークの研究も行われているらしいです

*3:この進化条件を求めるに当たって、協力行動による適応度への寄与が小さく、全個体数にたいして、繋がる個体の数がとても小さく、全ての個体が同じ数の個体と繋がるという仮定が行われている。