K研昼ゼミ:Gさんの論文紹介(ずるっ子更新)

Tolerance of pollination networks to species extinctions*1
 過去の二つのデータセットを使って、ポリネーター*2と植物の群集の、ポリネーターの絶滅に対する群集の抵抗性について、ネットワークモデルを用いて調べた論文。ポリネーターを1種ずつ絶滅させていき、その度に植物がどれだけ存続できるかを調べる。
 この研究では、過去のデータをネットワークモデルに適用するために、いくつかの重要な仮定をおいていた。

  • ポリネーターによる運搬以外で、花粉が運ばれることはない。つまり、その植物の全ポリネーター*3が絶滅すると植物は必ず絶滅する。
  • ポリネーションの効率はどのポリネーターも等しい。ポリネーターが1種でも残っていれば、その植物は存続できる。
  • 個体群のダイナミクスは一切考慮しない。

 結果は、generalistのポリネーター*4から順に絶滅させた場合は、specialist*5ポリネーターから順に絶滅させた場合や、randomに絶滅させた場合に比べて、早い段階で多くの植物が絶滅した。このことは、ネットワークの性質であるスケールフリー構造と入れ子構造の二つの構造によるものであることが分かった。結局、specialistよりも、generalistのポリネーターを大切にした方が、効率よく群集全体を守れますよ、ということであったらしい。そんなん、当たり前じゃないか(苦笑)
 この研究の一番の欠点は、やっぱり個体群のダイナミクスが一切入っていないところ。最近の群集の研究では、複数種の個体群のダイナミクスが入った仕事が沢山なされているので、群集研究としてはその辺りが時代遅れに見えた。
 この研究で使われた過去の二つのデータは、ものすごい膨大な種数を含むデータで、とても驚いた。だって、ポリネーター千数百種、植物数百種のデータって、どうやって取ったんだろう?と。大規模データって本当にすごい。しかし、Y助手曰く、このポリネーターにカウントされている動物の中に、単なるビジターが多く含まれるだろうとのこと。その辺の違いをもっと精密に解析してから、モデルにすると結果がひっくり返るかもしれない、とのことでした。


新しい知識

  • ポリネーターと植物の群集の関係の大規模データが存在する。
  • スケールフリー構造とは、ノード辺りのリンクの数がべき乗分布になるネットワークである。
  • 多年草の植物の絶滅リスクは、一般に昆虫より低い。なぜなら、昆虫より寿命が長いものが多いから寿命が長く、多数回繁殖のものが多いから。一年草だと昆虫より絶滅リスクが高いものがあるかもしれない。
  • ロッキー山脈の植物は多年草が多い。(ロッキーに限らず、山脈の植物ということかも)

*1:Jane Memmott, Nickolas M.Waser and Mary V.Price,Proc.R.Soc.Lond.B,(2004)271,2605-2611

*2:花粉を運ぶ動物

*3:データでは、多くの植物は複数のポリネーターに頼っていた

*4:複数の植物の花粉を運搬するポリネーター

*5:1種の植物しか相手にしない