U研論文読み会:その2

M君の「Fitness optimization of Daphnia in a trade-off between food and temperature*1
動物プランクトン(ミジンコ)の日周期運動というものがあって、よく知られている。どういうものかというと、昼は底の方でおとなしくしておいて、夜になったら上のほうに上がってきてエサを食べるというもの*2。けれど、必ずしも全てのミジンコがこの行動をするわけではない。じゃあ、この行動はなぜ起こるのか?適応的意義はなんなのか?についてを調べている一連の研究のひとつ。
どうしてこういう行動をとるのか?ということにはいくつか仮説があるらしく、最も有力なのは、明るい昼には目でエサを発見する魚から逃れるために底にいて、暗い夜になったら上のほうで藻類を食べるという仮説。で、そのときに湖の下のほうは温度が低く、かつ、エサが少ないが捕食者に見つかりやすい一方で、上のほうが温度が高く、エサが多く、捕食者には見つかりにくい、という関係性が必要なのだ。つまり、上と下でそれぞれにコストとベネフィットがないと、上下運動する意味がないから。
でも、野外では実は中くらいのところにエサが最大になる場所があるらしいよ?あれれ???ということで、10mくらいのながーいタンクを使って、上のほうに高温、下のほうに低温、エサは中くらいのところというような場を作り(捕食者はなし)、ミジンコがどういう位置分布を示すのか、また、その場所にいる個体の適応度(増殖率)を調べた論文。
結果は、どうも上と下の温度差が小さければ、小さいほど、下にいる適応度が高くなり、実際、分布を調べても温度差が小さいところでは下に数多くいるのだけれど、温度差が大きいと上のほうにも若干分布する、ということのようでした。つまり、必ずしも下はエサが少ないなどのコストがすごくあるわけではない、ということです。このことで、日周期運動をしない個体がいることを説明できるかもしれない。
どうも、この論文は、その少し前にでたPNAS?かなにかの論文の続きだったらしく、出来ればそっちを紹介して欲しかったなー、なんて、思ったりして。


新しい知識

  • 理想自由分布の考え方は、動物の空間分布の説明だけでなく、採餌行動にばらつきがあることへの説明にも使われる。

*1:Kirsten Kessler and Winfried Lampert ,Oecologia, Volume 140, Number 3, August 2004, 381 - 387

*2:エサの藻類は、一般に、光合成が出来るような明るいところに多くいる、ことになっている