望月先生のセミナー

 を聞きました。色々とアイディアが満載で触発されるようなセミナーでした。前半は、シアノバクテリアの体内時計のお話で、後半は細胞分化の定常状態を決める遺伝子を沢山の遺伝子の中から絞り込むという話でした。すごくおもしろかった。
 シアノバクテリアは、光合成に関するタンパク質合成のタイミングを決めるために、体内時計を使っているらしいです。*1そのタイミングを決めるたんぱく質が3つあるらしいのですが、最終的に光合成たんぱく質の合成を決めるたんぱく質(A)の量は、時間的に振動していないと時計になりません*2。で、3つのたんぱく質の量をその遺伝子の発現などの相互作用を考慮して、Aたんぱく質の量の時間変化を微分方程式で記述すると、3つだけではどうしても振動は得られないということが分かったのだそうです。そこで、他のなにか分かっていない状態があるということで、色々調べてみると、Aたんぱく質を作る前の段階に、もう一つ別の物質が作用しているはずだということが予測されたらしいです。この話のすごいところは、その物質が最終的に実際に発見されたというところでした。


 後半の話は、なんとなくまだ論文になっていなそうなので、ここではあまり詳しくは書けないですが、「沢山の要素と沢山の結果が考えられるときに、ありえない状況を排除してから考える。そこから色々な予測をする」というお話が、とても面白かったです。


後半のお話では、前提として遺伝子発現の定常状態を求めていて、遺伝子発現の定常状態って何を意味するのだろうとすごく気になったのですが*3、それもパスタ皇子と発生のTさんの発言や質問と望月さんのお答えですこし分かったような気がしました。
 数学科のT先生がおっしゃっていたのですが、微分方程式の定常状態を求めるということが非常に重要視されてきたけども、定常状態の意味は系によって違っていて、定常状態を求めればそれでO.K.ということではないとのことです。本当にそのとおりだなぁと思います。いつ定常状態に達するのか、定常状態に必要なものはなんなのか、定常状態にいたるまでのトリガーは何なのか、定常状態以外の状態は本当に重要でないのかということが、生物の研究にはとても重要なような気がします。


 もう一つ面白いと思ったことを。定常状態の数がいくつあるか、ということは、ネットワークの要素の数やリンクの数にはあまり影響されなくて、ループの数*4とその関係が重要だというふうにおっしゃっていました。これは、生態系の安定性の研究にも重要なのかも、と思いました。というのも、最近生態系の安定性の研究にbistabilityの問題*5が注目されていて、そのことととても関係があると思うのです。生態系ネットワークの場合、負の自己フィードバックループは普通にみられるかもしれないけれど、それ以外のループ構造というのは古典的な理論で一番の批判対象になった部分だと思うのです。そう考えると、ネットワークの定常状態の数の増加にループ構造が不可欠だとして(実際には他にもあるかもしれませんが)、それが生態系では実現しないなら、定常状態の数を考えるのはそれほど重要ではなくて、少ない定常状態がどれくらい安定的なのか、ということを考えていくことが重要なのではないかなぁと思ったのです。そういえば、以前にU研輪読で聞いた、生態系の安定性の定義と多様性-安定性問題についてのScienceのレビュー論文では*6、定常状態の数は多様性が上がる毎に減ってくるということが述べられていましたし、安定性の指標として特に定常状態が一つのときにどうなるのかということをとても重要視して話が進められていた気がするなぁと思ってみたりするわけです。

*1:お日様が出るまえに、光合成たんぱく質を作って準備するためには、24時間周期の体内時計が必要らしい。

*2:そのたんぱく質の量が多いときに、光合成たんぱく質を作るスイッチがオンになる感じ。

*3:私が振動をテーマに扱っているからかもしれないですが

*4:要素Aにフィードバックがある、とか、要素AとBが互いに相互作用をしあうなど。

*5:どれくらい定常状態を持つのか、定常状態が複数ある場合にどう移り変わるかとか

*6:後から、K研の輪読で同じものを自分とG子さんとで発表したのですが、まとめ記事を書いてなかったなぁ。失敗。