U研論文読み会

うっ。。。ヤバイ。本気で論文探さなきゃ。なかなかイイのが見つからない。今回はMさんがレビュー論文を紹介してくださるとのことで、どういう風にやるのか楽しみだった。レビューの説明はいつも難しいと感じていて、そこが一つ勉強になったと思う。
1)Mさんのレビュー論文紹介「Cladocerans versus copepods: the cause of contrasting top-down controls on freshwater and marine phytoplankton.*1
 (水系)生態系研究の重要なトピックの一つに、「カスケード効果」というのがある。どういう概念かというと、「植物は植物を食べる動物(植食者)に食べられる、動物は動物を食べる動物に食べられる(肉食者)、さらにその動物は...という構造が生態系の中にあるとき、例えば肉食者が増えると、植食者が減るので、結果として植物が増えるよ」というものだ。で、この概念、どうも湖の生態系ではよく観察できるのだけど(動物プランクトンを食べる魚が増えると、植物プランクトンが増える)、海の生態系ではあまり観察できない(動物プランクトンを食べる魚が増えても、さして植物プランクトンは増えない)のはどうしてなんだろうか?ということを明らかにした、近年の一連の研究を総まとめしたもの。
 結果としては、どうしてそんなことが起こるのかと言うと、どうも海と湖では違うタイプの動物プランクトンがいるかららしい。どう違うかと言うと、湖では魚に食べられそうな動物プランクトン*2は、小さい植物プランクトンを良く食べる。で、それらを食べる魚が増えると、小さい植物プランクトンが増えるので、植物プランクトンの全体の量は多くなる。でも海では、魚に食べられそうな動物プランクトンは、大きい植物プランクトンを良く食べる。それらを食べる魚が増えると、確かに動物プランクトンは減るし、大きい植物プランクトンは増えるのだけど、小さい植物プランクトンはあまり変わりがない(もともと食べられてないから)。そして、ここがミソなのだけど、大きい植物プランクトンと小さい植物プランクトンでは、小さい方が圧倒的に早く増えるので、植物プランクトン全体の総量としての反応は小さい方の植物プランクトンが主に担っている。そうすると、小さい植物プランクトンにあまり変化を与えない海のカスケード効果は、湖よりも、そんなにはっきりした結果が出ないのだよ、という研究。
レビュー論文がU研の論文セミナーで紹介されたのは多分初めてで、そういう意味で色々と勉強になった。また、やっぱり野外の知見がたっぷり含まれていて、それもすごく勉強になったと思う。楽しかった。
2)T君の論文紹介「Effects of depth,salinity, and substrate on the invertebrate community of a fluctuating tropical lake*3
 湖の「動物プランクトン群集底生生物群集の群集構造が、様々な環境要因(塩分濃度などの水質、他の生物、水深などの物理的環境)と関係があるかが塩分濃度と植物組成のどちらの要因でより決まっているか?」という問題を、10年単位で120年分ほどのデータを使って解析した論文。過去120年の湖の生物や環境特性塩分濃度をどうやって調べたかと言うと、湖の底に溜まっている土をコアという円筒形のパイプで抜き取って、その土を層別(つまり年代別に)分析する。ちょっと地学っぽい。RDA(冗長性分析)という多変量解析を使って、年代ごとの底生生物動物プランクトンは、どうもある植物(パピルスの一種)が多いと多くなる*4らしく、塩分濃度*5にはあまり関係がないということを示した。
相変わらずRDAなる解析方法を理解してないのだけど、とりあえず、T君が図をしっかりと説明してくれたおかげで結果は理解できた感じ。統計はイマイチイメージもつかめないことがあって、もっと勉強しなくてはと思う今日この頃。シミュレーションは結構統計使うことあるしね。

*1:Sommer, U. and F. Sommer, 2006,Oecologica 147: 813-194

*2:魚に食べられない動物プランクトンもいる。でもそいつらは、食べられないのでカスケード効果にはあまり関わりがない

*3:Dirk Verschuren, John Tibby, Koen Sabbe and Neil Roberts, Ecology,81(1), 2000, 164-182

*4:そのパピルスの一種は、水深が深くなると増える

*5:以前から、生物群集と塩分濃度は関係が深いといわれてきたらしい。例えば、塩分濃度が増えるとある生き物が減るので、それと競争するようなほかの生き物で、塩分耐性を持つものが増えてくるとか。