"Optimal nitrogen-to-phosphorus stoichiometry of phytoplankton"*1

日本語要約はここ植物プランクトンの窒素対リン比を決める要因を、制限要因ではなく植物プランクトンの内部構造に注目してモデルを作った。それによると、環境が平衡状態に近いと植物プランクトンは窒素が多くなり、指数増加している環境だとリンが多くなるらしい。なぜかというと、指数増殖しているときにはリボソームが沢山必要になるので、そして単細胞植物プランクトンのリンの多くはリボソームに存在しているからだ。一方、制限要因が光で平衡状態のときには、光合成にコストがかかるので葉緑体を増やす。葉緑体は窒素が多くリンはほとんど含まないので窒素が多くなる、というストーリー(他に制限要因がリンであるとき、窒素であるときのストーリーがある)。これらのストーリーで実際の藻類の窒素とリンの要求比が説明できる、というもの。
 この論文ではすごく重要な指摘がなされたと思う。それは、これまで野外の海洋の植物プランクトンの窒素対リン比を論じるときには、常にRedfield比という"群集全体の平均的な比"が重要視されてきた。けれど、本当に重要なのは、その比のバリエーションにあるということだ。それは私も納得した、というか、好きな考え方だ。個々の生物にとっては群集全体の比はどうでもいいことだし、個々の生物がどんな比を持っているかによって、そしてそれらの頻度によって全体の比が変わるに違いないからだ。
 でも"制限要因でなく植物プランクトンの内部構造で野外の植物プランクトンの窒素対リン比を説明できる"という主張はおかしいと私は思った。確かに、この論文が出た当時に公表されている植物プランクトンの窒素対リン比の主要な値を、それぞれ説明できてはいる*1。けれど、値だけではだめで、その種の持つ特異的な細胞の構造をきちんと解析しないと、実際の値がその考え方とマッチしていることが説明できないと思う。窒素対リン比が低いからといって、必ずリボソームが多いとも限らないだろうと思うのだ。せめて最大増殖率のデータを一緒に示すとか、それらの種が好む環境を示すとか、そういう解析が必要だと思った。
 それに、このモデルは"ある条件下では、あるパラメータを最大化するのが適応的"ということを予め決めてしまっている。例えば"指数増殖環境では最大増殖率を大きくすることが適応的である"という感じに。そこを前提にしてしまったら、答えはモデルを作るまでもなくわかりきっていると思う。問題なのは前の例で言えば、"このタイプの生き物の最大増殖率を大きくすることが適応的になる環境"が何なのか?ということだろうと思う。なんでこれでNatureなのかがよく分からない。
最近、こういう「モデルを作るまでもなく分かってしまう」というようなモデル研究に触れる機会が多くて、ちょっとうんざりしている。って私の研究もそうだから、嫌なのだとは思うけれど。

*1:できていないものもある。それに、使われている藻類の種類はせいぜい30種類程度