林太郎「江戸解剖始記―小説・山脇東洋」

友人のwaさんが、よく、「本当にすごいのは(何かを)最初にやった人間だけです。他は駄目です。」ということを言う。waさんはあまり相手が話したいことと自分が話したいことの違いには気をとめないたちなので、私が「すごい」かどうかを問題にしたくない話題の中でも、そういう発言をする。そうすると「否定嫌い」の私はとても居心地の悪い思いをする。だって、他は駄目って、そりゃないよなと思う。だから、この言葉は私の中でしばらく「不愉快なイメージ」とともに記憶されていた。
でも、この本を読んで、自分もwaさんと似たようなことを考えることがあるのだなぁと、しみじみ思った。「他は駄目」とは思わないけれど、「本当にすごい」としみじみ思った。
この山脇東洋という人は(常識だったらスミマセン)、日本ではじめて人体解剖をした人だそうだ(私は、日本で最初に人体解剖したのは杉田玄白だとばっかり思っていた)。この小説では、その当時の人々の暮らし、医学の流れ、そして常識と共に、山脇東洋の人生が臨場感あふれる言葉で書かれてある。特に、冒頭の解剖のシーンがすごくて、一気に引き込まれるように読んだ。こういう人がいて、杉田玄白らの偉業があるのだなと思った。
話は変わるが、生物多様性の「多様な生物群集はそうでない群集より不安定」という理論*1を有名にしたR.Mayという数学者がいるが、実はこのアイディアを最初に考えたて発表したのは、Gardner and Ashby(1970)だ。Mayは、彼らの結果を一般的にし、数学的に証明したのだ。考えてみると、自分もそういう一般的にした人のほうが有名というケースを前から知っていたのだなと思った。

*1:実証されたわけではない。