1月23日のU研輪読セミナー

今頃になってしまったけれど(というか内容をそもそも半分以上忘れてしまっている)。久々の日記更新なので気になっていたことを書きます。このセミナーが今年度最後のU研輪読だった。 
1)Y君の「Role of organic nitrogen in the nitrogen cycle of a high-elevation catchment, Colorado Front Range *1
 確か湖に入り込む水がどういう由来かによって湖の栄養塩の状態が変わるというタイプの論文だったと思う。ほほー、と思ったのは、雪解け水が栄養塩のソースになることがあるということ。どうしてかというと、雪が徐々に解けてきて、地面のところと雪のところがあるとき、地面から砂やら土やらが風で吹き上げられて雪に落ちるから。要はあの春間近のきったない雪が解けると栄養塩を運ぶ役目をするよ、という話だった。そして、その運ばれた雪の栄養塩が湖の水に与える影響を調べた研究だった(と思う)。実は細かいところは専門的で難しくてわからなかったのでした。こういう研究もちゃんと理解できるようになりたい。
2)自分の「Adaptive Evolution of Phytoplankton Cell Size *2
 植物プランクトンの細胞サイズは、生存にとても重要な影響を及ぼすパラメータだと考えられている。過去のデータ(例えば珪藻の化石とか)から調べてみると、どうも小さくなる方向に進化しやすいようだ。で、本当にそうなるのか?ということを数理モデル(シミュレーションは殆どしてない。結果の殆どが数式を解くタイプ)を使って、調べてみましたという論文。
植物プランクトンは系統解析をしてみても、小さくなる方向に進化するパターンというのは複数回見られているらしい。考えてみると小さくなるのは色々と有利な側面がある。例えば、沈降速度(死亡の一種*3数理モデルで解いてみようという論文です。
 結果は、小さくなる方向に進化するらしいです。少なくとも増殖率が最大になると仮定した細胞サイズより小さくなる(大きくはならない)。そして、捕食者が存在しても小さくなる。どうしてかというと、捕食者は自分に一番合ったサイズのエサ(植物プランクトン)がもっとも捕食効率が高いということになっていて、さらに捕食者のサイズを決定する要因が他にないので、エサが小さくなったら自分も小さくなればいいやということなのだ。だから、捕食者がいても植物プランクトンは小さくなるし、捕食者は小さくなったエサをおいかけて自分も小さくなるだろうという予測でした。他に進化の下で、系が安定するとかしないとかいう部分も軽く(大雑把に)解析されていた。
 モデルというものは何を仮定するかによって、結局のところ答も見えてしまうなーというのがこの論文の感想。すごいのは設問の仕方だと思う。植物プランクトン進化のこれまでの研究をよく知っていないと、こういう魅力的な設問は出来ないなと思いました。研究が演繹的だ。
 U研の人たちからも色々な意見が出て面白かった。一つは丁度いいサイズ以下のエサの捕食効率は、同じような感じなんじゃないか(非常に小さいとまずいけど)という意見。これは、Daphniaには実際にあるらしく、すっごく小さいエサだけで育てても結構すくすく育つらしいという研究があるようだ。また、Daphniaのように濾しとって食べるタイプじゃなく、ケンミジンコのように捕まえて食べるタイプは、エサの大きさだけじゃなく、他にもいろいろな要素で選んでいる可能性があるよ、とか。やはり、主に捕食者のサイズがエサのサイズで一意に決まっていることが気になるようだった。
 私はどちらかというと、植物プランクトンミカエリス係数が、細胞サイズで変わらないことが気になった。これは、栄養塩の吸収効率が細胞サイズで変わらないことを意味するのじゃないかな。

*1:Mark W.Williams, Eran Hood, and Nel Caine, VOL.37, NO.10, P.2569-2581, 2001

*2:Lin Jiang, Oscar M. E. Schofield, and Paul G. Falkowski Am. Nat. 2005. Vol. 166, pp. 496-505

*3:植物プランクトンは自主的に浮かび上がれないことが前提で、一度沈むと浮かび上がれない。沈むと日光が当たらなくなって、光合成できず死亡することになる。)))は大きければ大きいほど高い。でもよく考えると、ある程度以上に大きい方が増殖の効率は高いはず。それに、大きい方が捕食されにくいはずだし。  ということで、本当に小さい方向に進化するのかな?ということを、量的遺伝学のモデルと個体群動態のモデルを組み合わせた((古典的な進化のモデル。最近はESSを使ったAdaptive Dinamicsが流行中。ADは数学的に解くのに便利らしいです。嫌ってる人もいる。私は嫌うほど知らない。