U研の論文読み会

 毎度ながら、大変タメになるセミナー。対象生物の実物を扱っている人の、色々な論文についての話を聞けるのは、私にとってはありがたいことです。
1)I君の「Response of grazing snails to phosphorus enrichment of modern stromatolitic microbial communities*1
 ストロマトライト(藍藻)を食べるsnail(貝)の増殖率が、リン添加にどのような影響を受けるか?という論文。ストロマトライトにリンをあげて、それを貝に食べさせるという実験。面白かったのは、リンが少ない藍藻にリンを添加すると貝の増殖率が上がるのだけれど、リンが多いところにさらにリンをあげると、貝の増殖率は減少するということろ。リンが多いところにリンを添加すると、貝のRNA/DNA比が下がるけど、リン含有率は上がっている。メカニズムは分からないけれど、取り込んだリンが増殖に寄与しないのだ。しかも死亡率まで上昇してしまう。
 U先生曰く、リンと炭素の取り込み率の比を消化管でコントロールすることは動物には出来なくて、リンが沢山欲しければ炭素も沢山摂取しなくちゃならないし、リンはもういらないとなれば炭素の摂取量も減らさなくちゃならないものらしい。だから、ものすごく濃い(普段遭遇しないような濃度の)リンがエサに含まれていると、リンを過剰に摂取しすぎて、体がおかしくなっちゃうということらしい。アメリカではダイエットに使うらしい。怖いねぇ。具合悪くなりそうだね。
2)S君の「Maternal control of resting-egg production in Daphnia*2
 ミジンコは休眠卵を作る。その休眠卵の割合は、作る個体の親世代のエサ環境と、作る個体のエサ環境の違いによって生まれるといわれている。休眠卵にとってのおばあちゃんが沢山エサを食べて、お母さんはあまりエサを食べなかった場合に、お母さんは休眠卵を沢山作るということだ。この論文ではさらに、エサの量の他に日周期が影響しているのではないか?という仮説を立てている。つまり、お婆さんの日周期とエサ環境、お母さんの日周期とエサ環境の違いで、休眠卵を作る割合を調べた研究。合計16種類*3の環境で、ミジンコに休眠卵を作らせる。
 結果は、お母さんのエサ量が多いときには、全く休眠卵は生まれなかった。しかし、お母さんのエサ量が少ないときには、おばあさんのエサ量で休眠卵を作るか作らないかが変わる(ここまでは先行研究と同じ)。さらに日周期の影響としては、おばあさんのえさ量が多いときには、おばあさんの日周期の長さで休眠卵量が変わるけれど(日周期が短い方が多く生む)、おばあさんのえさ量が少ないときには、おばあさんの日周期の長さで休眠卵量は変わらないらしい。その結果と湖環境の季節変動を組み合わせて解説している。ちなみに、どうやっておばあさんの日周期の情報をお母さんが感知するのかの生理的(?発生的?)メカニズムは分かっていないらしい。
 いや、それにしてもまぁ、交互作用の研究ってどうしてこんなに小難しくなるのでせうね。データのどこを抽出して解釈するかでずいぶん違った話になる気がした。

*1:JAMES J . ELSER, JOHN H. SCHAMPEL, MARCIA KYLE, JAMES WATTS, EVAN W. CARSON, THOMAS E. DOWLING, CAROL TANG AND PETER D. ROOPNARINE,Freshwater Biology (2005) 50, 1826-1835

*2:Victor Alekseev & Winfried Lampert,NATURE,(2001) ,VOL 414, 20-27

*3:おばあさん:エサ多少,日周期長短(2×2=4),おかあさん:エサ多少,日周期長短(2×2=4)で4×4=16